国立国会図書館月報 [染型紙] 江戸~明治期における筑後柳川の染色用型紙 江崎栄一編
写真の型紙は2007年3月加古川市で発見された約700枚の一部です
国立国会図書館月報 538号/2006① 20-21ページより転載
本屋にない本
国立国会図書館は、法律によって定められた納本制度により、日本国内の出版物を広く収集しています。このコーナーでは、主として取次店を通さない国内出版物を取り上げて、ご紹介します。
◆[染型紙] 江戸~明治期における筑後柳川の染色用型紙 江崎栄一編 2004・12 289頁 A4 (KB16-H486)
紺屋町。この町名を聞いて、皆さんは、どの土地を思い浮かべるでしょうか。実は、この町名、北は青森から南は宮崎まで、日本中に存在している、とても一般的な地名なのです。
近世の頃、各地の城下町において、「紺屋」、すなわち染め物を職業とする人々が集まって住んでいたことの名残でもあり、いかに紺屋が近世の人たちにとって身近なものだったかということが伺われます。
さて、この「紺」屋という名が表すとおり、当時、庶民の染めと言えば、藍染めが中心でした。歴史に登場した当初は高価だった藍の染料も、その製造方法の変化により、広く普及するようになり、やがて生活に欠かせない色となってゆきました。そして同じ頃、同じように庶民の間に浸透したのが、型染めと呼ばれる染めの技でした。この技法は、布の上に文様を彫った型紙を置き、その上から防染剤である糊などを乗せることによって、防染剤を乗せた部分を染め残し、文様を浮かび上がらせる方法のことです。紺屋がこの型染めを行うにあたってとても大切にしたのが、文様の決め手となる型紙でした。
本書は、この型紙を集めて収録した資料です。書中に、著者の祖先が福岡で紺屋を営んでいたとあります。本書に収録されているのは、著者の祖先の紺屋が、その店の独自性を出すためにそろえた型紙です。近代に入って、和装が日常着ではなくなってから、多くの紺屋が廃業し、それに伴って、多くの型紙が廃棄されました。そうした状況の中で、この著者の家のように、最近まで良い保存状態で型紙が残っているということは、大変貴重なことなのです。
本書の中で、著者は1,200枚以上残っていた伝来の型紙から、およそ900枚を選び、小紋、小紋中型、中型、絣、絞、追掛型といった、文様の大きさや種類で分類して掲載しています。その多様さにも驚かされますが、なかでも圧巻なのは、追掛型の型紙とそれらの型紙を著者が合成した写真です。
追掛型とは、何枚かの型紙を組み合わせて使用することによって、一つの文様や絵柄を浮かび上がらせるために用いられる型紙の種類を指します。例えば、白地に紺の点を浮かべようとすると、白地の部分は、防染剤をおくために切り抜かなければなりません。もしこのとき、一枚の型紙で用を足そうとすると、点の部分の紙がばらばらに切り離されてしまうことになり、型紙として使用できなくなってしまいます。では、どうするのしょうか。例えば、縦縞、横縞に彫った二枚の型紙を用意し、一枚目を置いて防染剤を乗せ、その一枚を除いた後、続いて二枚目を置いて防染剤を乗せれば、その縞の重なった部分だけに、防染剤が乗らず、染料が染み込み、白地に紺の点の文様が染められることになります。このように複数の型紙を用いることによって、一枚の型紙では染められない文様を染められるのです。
もちろん、実際の追掛型の型紙はそのような簡単な作りではありません。描かれた絵柄を型染めで再現するためには、一枚の絵を効率よく、複数の型紙に分解することが求められます。また、これらの型紙を模様がずれないように正確に貼っていく、紺屋の熟練した緻密な技術も求められます。この、染め技法には、文様の完成図の見事さもさることながら、型染めならではの技の魅力が集約されていると言えるでしょう。本書では、残された型紙を手掛かりに、著者が組合わせを再現した追掛型の型紙が150組359枚も紹介されています。多いものでは四枚もの型紙を組み合わせて成立する文様も紹介されています。一見、何が描かれているか分からない型紙の一枚一枚が組み合わされることで、時には優雅で繊細な、時には躍動感あふれた勢いのある、時には艶やかで豪奢な、見事な一枚の絵として立ち現れてくる様は感動的です。
なお、当時の型紙には、和紙を柿渋で加工した型地紙が使われていましたが、本書には、型紙の写真の他に、実際の型地紙そのものも同封されており、質感までも実感できることを書き添えておきます。
庶民の生活に浸透していた、ありふれたものであるほど失われやすく、またそれゆえに貴重であるということは、何かを保存することを使命としている者のとって、切実な現実です。本書の著者は、自分が染色の専門家ではないことを重ねて述べており、また本書があくまで特定の地域の記録であることを否めません。しかし、土地土地の型紙を訪ね歩いている研究者にとって、その土地に長く暮らしている家に古くから伝わってきた、その家独自の型紙を、そのまま数多く収録している本書ほど、理想的な一次資料はありません。失われがちな庶民のデザインである型紙を、丹念に拾い上げ、残そうとする著者の志と努力に敬意を払いたいと思います。
(伊藤 直美)
■[型紙] 江崎さんのサイト
Japanese Paper Stencils for dyeing
江戸~明治の染色用型紙
http://www.geocities.jp/somekatagami/
(納本リスト)
http://www.geocities.jp/somekatagami/nohon.html
■東京・銀座「個人書店」のサイトより
ニューヨークのユニクロで日本の伝統的デザインのTシャツが販売されました。なんとそのデザインの出所は、個人書店制作書籍『染型紙』に収載された染色用型紙デザインです。江戸期~明治期の染色用型紙900点以上を集めたこの本は、いわば日本の伝統的デザインの宝庫。銀座店頭で販売しておりますし、展示もしております。
■Picasa Web Album
紺屋の型紙 Katagami (加古川市)
http://picasaweb.google.com/PINBOKE/Katagami/
photo#s5075515857950335954
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